エンジニアの年収の中央値は?公的統計で自分で確かめる手順

「エンジニアの年収は◯◯万円」という数字はあちこちで見かけますが、その多くは平均値で、しかも出典が書かれていません。平均は一部の高年収層に引き上げられるため、実感とズレます。知りたいのは「真ん中の人はいくらか」、つまり中央値のはずです。この記事では、中央値が平均とどう違うのかを整理したうえで、国が公表している統計から自分で最新の中央値を確認する手順を具体的な表名まで示します。数字を鵜呑みにせず、根拠から確かめられるようになります。
公的統計と一次情報にあたって記事を書いています。この記事ではe-Statの賃金構造基本統計調査の統計表を2026年9月12日に確認しています。出典を示せない年収額は掲載していません。
平均年収と中央値は別のものを指している
まず言葉の整理からです。平均値は全員の年収を足して人数で割った値、中央値は全員を年収順に並べたときにちょうど真ん中に来る人の値です。この2つは、分布が左右対称でないときに大きくずれます。年収の分布は下限は0円で頭打ちがない一方、上側には少数の高年収層が長く伸びる形をしているため、平均は中央値より高く出るのが普通です。エンジニアの年収を語るときに「平均◯◯万円」だけを見ると、実際より高い水準を基準にしてしまいます。
なぜ平均は高めに出るのか
仮に10人のうち9人が500万円、1人が3,000万円だとします。平均は750万円ですが、中央値は500万円です。この場合、平均の750万円を基準に「自分は平均以下だ」と考えるのは的外れです。実際の集団では9割の人が500万円なのですから、500万円は真ん中の値です。エンジニアの世界には役員待遇や高度専門職の求人も含まれるため、平均値は上に引っ張られやすい職種だと言えます。
中央値だけでも足りない
とはいえ中央値だけを見ても、自分の位置は分かりません。中央値は真ん中の1点でしかないからです。本当に役立つのは分布そのもの、つまり下から10%の人がいくらで、上から10%の人がいくらかという情報です。統計の世界ではこれを十分位数と呼び、後述する国の統計では中位数と一緒に公表されています。自分の年収が分布のどのあたりにあるかを知るには、この数字を見るのが最短です。
- 平均値は一部の高年収層に引き上げられる
- 中央値は年収順に並べた真ん中の人の値
- 年収分布は上側に長く伸びるため、平均は中央値より高く出やすい
- 自分の位置を知るには、中央値に加えて十分位数を見る
- 出典の書かれていない年収額は、そもそも比較の対象にしない
求人サイトで見かける「平均年収」と、自分の周囲の実感がズレるのは自然なことです。見ている指標が違います。
求人サイトの平均年収が実態とズレる理由
もうひとつ、見ている集団の違いという問題があります。求人サイトが出す平均年収は、多くの場合そのサイトに掲載されている求人、またはそのサイトの登録者から計算されています。これは日本のエンジニア全体ではありません。転職を考えている層、しかも特定のサービスを使っている層に偏っています。統計用語では母集団が違うと言います。数字そのものが間違っているわけではなく、何を代表した数字なのかが違うということです。
掲載求人から計算した場合
求人票に書かれた提示年収の平均は、実際に支払われている年収の平均とは一致しません。求人票には幅を持たせた上限が書かれることが多く、また採用を強化している高待遇のポジションほど露出が増えるためです。結果として、募集時点の期待値の平均に近い数字になります。在籍している人全体の実態を知りたいときには使えません。
登録者データから計算した場合
登録者の申告年収から計算する場合も、そのサービスの利用者層に偏ります。ハイクラス向けを標榜するサービスなら当然高く、未経験向けなら低く出ます。どちらも嘘ではありませんが、比較するときに混ぜてはいけません。年収の記事を読むときは、まずこの数字は誰を数えたものかを確認する習慣をつけると判断を誤りません。出典が書かれていない記事は、その確認自体ができないということになります。
| 数字の出どころ | 数えている集団 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 求人票の提示年収 | 募集中のポジション | 転職市場の相場感をつかむ |
| サービス登録者の申告 | そのサービスの利用者 | 同じサービス内での比較 |
| 国の賃金統計 | 全国の事業所に雇われている労働者 | 実態としての水準を知る |
公的統計で中央値を確認する手順
国の統計には、職種別に所定内給与額の中位数と十分位数が公表されている表があります。厚生労働省の賃金構造基本統計調査です。この調査は職種・性・年齢・学歴・勤続年数・経験年数などの属性別に、産業や企業規模別の賃金を提供しています。以下の手順をたどれば、記事の数字を経由せず、最新の公表値を自分で確認できます。所要は5分ほどです。
見るべき統計表の名前
e-Stat(政府統計の総合窓口)で賃金構造基本統計調査を開き、職種のカテゴリに進むと、次の名前の統計表があります。「職種(小分類)、所定内給与額階級別労働者数及び所定内給与額の分布特性値(産業計)」。この表に中位数が載っています。これが分かっていれば、毎年の公表のたびに最新値へ更新できます。当サイトも2026年9月12日時点でこの表の存在を確認しています。
- 所定内給与額は残業代を含まない
- 年収換算には年間賞与その他特別給与額を足す
- 統計上の職種名は普段の呼び方と違う
- 公表は毎年更新されるので公表年を確認する
- 企業規模別・都道府県別のデータも同じ調査にある
エンジニアはどの職種分類に入るのか
注意が必要なのは、統計上の職種名がいわゆるエンジニアの呼び方と違うことです。社内システムエンジニアやプログラマーはソフトウェア作成者に分類されます。システムアナリスト、システムコンサルタント、情報処理プロジェクトマネージャーはシステムコンサルタント・設計者に分類されます。自分の職務がどちらに近いかで見る行が変わるため、ここを取り違えると別の職種の数字を見ることになります。
所定内給与額から年収を見積もる
この統計の中心となる数値は月額の所定内給与額です。年収を知りたい場合は、月額を12倍したうえで、同じ統計に載っている年間賞与その他特別給与額を足します。残業代は所定内給与額に含まれないため、残業が多い職場ではこの計算より実際の支給額が多くなります。逆に言えば、残業に依存しない基本的な水準を比較できるということでもあります。職場を比べるときには、むしろこちらのほうが適した指標です。
| 手順 | やること | 見る場所 |
|---|---|---|
| 1 | e-Statで賃金構造基本統計調査を開く | 政府統計の総合窓口 |
| 2 | 職種のカテゴリに進む | 一般労働者・職種 |
| 3 | 分布特性値の表を開く | 職種(小分類)…分布特性値(産業計) |
| 4 | 該当する職種の行を見る | ソフトウェア作成者 ほか |
| 5 | 中位数と十分位数を読む | 所定内給与額(月額) |
| 6 | 年間賞与を足して年収換算する | 同調査の賞与の欄 |
公表値は毎年更新されるため、記事に数字を固定して書くと古い値がそのまま残り続けます。当サイトでは、確認した時点を示せる数値だけを掲載する方針です。上の手順で、いつでも最新の公表値を確認できます。
職種や経験で分布はどう変わるか
同じエンジニアでも、担当する領域によって年収の分布は変わります。ただし「この職種は高い」という断定は、根拠を示せないかぎり意味がありません。ここでは、分布が変わる要因として何を見るべきかを整理します。統計表は職種別・年齢階級別に分かれているため、自分に近い条件の行を選んで比較することが可能です。記事の平均値をひとつ覚えるより、この読み方を覚えるほうが長く使えます。
職種による違い
統計上の分類では、要件定義や設計に関わる職種と、実装が中心の職種が別の行に分かれています。それぞれの中位数を並べると、担当領域による水準の差が見えます。組み込み、インフラ、データ分析といった細かい区分は統計の小分類には現れないことがあるため、その場合は近い分類で見るか、企業の有価証券報告書に載っている平均年間給与を併用します。有価証券報告書は企業ごとの実額なので、志望企業が上場していれば確実な材料になります。
年齢と経験年数による違い
同じ調査には年齢階級別の数値もあります。20代前半と40代では分布が大きく異なるため、全年齢を混ぜた中央値だけを見ると自分の位置を見誤ります。自分の年齢階級の行を見るのが正確です。経験年数別の数値も提供されているので、未経験から転職した場合の初期水準を知りたいときはそちらが参考になります。転職の可否を判断する材料としては、年齢よりも経験年数のほうが実態に近いことが多いです。
企業規模と地域による違い
この調査は企業規模別・都道府県別のデータも提供しています。同じ職種でも、規模の大きい企業のほうが分布は上に寄る傾向があります。地域差も無視できません。フルリモートの求人を検討している場合、勤務地の定義が給与テーブルにどう影響するかは企業ごとに違うため、求人票の給与欄と勤務地の条件をセットで確認する必要があります。統計は全体像を知るためのもので、個別の交渉材料としては志望企業の公表情報のほうが強く働きます。
- 職種の小分類で、要件定義寄りか実装寄りかを分けて見る
- 自分の年齢階級・経験年数の行を選ぶ
- 企業規模別の数値で、志望先の規模に近い行を見る
- 上場企業なら有価証券報告書の平均年間給与を併用する
- フルリモートの場合は勤務地の定義と給与テーブルの関係を確認する
「エンジニアの年収」とひとくくりにせず、自分と条件が近い行を選ぶ。これだけで数字の意味がまったく変わります。
統計の職種名は独特です。「ソフトウェア作成者」を知らずに探すと、該当する行が見つからず諦めてしまいます。
年収の情報を転職の判断にどう使うか
数字を確認できたら、次はそれをどう使うかです。中央値は「自分がもらいすぎか、少なすぎか」を判定するためのものではなく、次の職場に何を期待していいかの目安として使うのが実用的です。現職の水準が分布のどのあたりにあるかを把握すると、転職で何を改善したいのかが具体的になります。漠然と年収を上げたいと考えている状態から一歩進みます。
| 比較する場面 | 使う指標 | 注意点 |
|---|---|---|
| 自分の位置を知る | 中位数と十分位数 | 年齢階級と経験年数をそろえる |
| 転職先の相場を見る | 求人票の提示年収 | みなし残業と賞与の扱いを確認 |
| 志望企業を評価する | 有価証券報告書の平均年間給与 | 全社平均で職種別ではない |
| 市場の規模感を語る | 平均値 | 個人の判断材料には向かない |
現職の位置づけを確認する
まず自分の年収を、同じ職種・同じ年齢階級の分布に当てはめます。中位数より下なら、同じ仕事内容でも水準の高い企業に移ることで改善する余地があります。既に上位にいるなら、年収以外の条件を優先したほうが満足度は上がりやすいでしょう。このとき、残業代を含めた総支給で比較しないことが重要です。所定内給与額は残業代を含まないため、比較する側もその条件をそろえる必要があります。
求人票の金額を読み替える
求人票の年収欄は、多くの場合みなし残業代や賞与の見込みを含んだ表記です。同じ600万円でも、みなし残業45時間込みの600万円と、残業代別途支給の600万円では実態が違います。応募前に、その金額に何が含まれているかを確認してください。書かれていなければ、面接や面談の場で質問して差し支えありません。むしろ確認せずに入社するほうがリスクです。
- その金額にみなし残業代が含まれるか
- 賞与の見込みが含まれるか、実績はどうか
- 試用期間中も同じ金額か
- 昇給の仕組みと評価のタイミング
- 勤務地の定義が給与テーブルに影響するか
交渉の材料にする
希望年収を伝えるとき、根拠のある数字を示せると話が進みやすくなります。公的統計の水準と、志望企業が公表している平均年間給与、そして自分の経験を結びつけて説明する形です。ただし統計値はあくまで全国の分布であり、個々の企業の給与テーブルとは別物です。断定的に「統計ではこうだから」と主張するより、自分の経験がどの水準に相当するかの説明材料として使うほうが現実的でしょう。最終的な提示額は企業の制度で決まります。
- その数字は誰を数えたものか
- いつ時点の数字か
- 平均値か中央値か
- 残業代を含むか含まないか
- 出典が明記されているか
よくある質問
エンジニアの年収の中央値について、検索でよく調べられている疑問をまとめます。個別の企業や職種によって事情は変わるため、一般的な考え方としての回答です。統計の数値は毎年更新されるので、実際に確認するときは公表年を必ず見てください。以下は2026年9月12日時点で確認した統計表の構成にもとづいています。
中央値と平均値、どちらを信じればいいですか
自分の位置を知りたいなら中央値、市場全体の規模感を語るなら平均値、という使い分けになります。ただし比較のときは必ず同じ指標どうしで行ってください。求人サイトの平均年収と国の統計の中位数を並べて「差がある」と考えるのは、指標も母集団も違うため意味がありません。どちらか一方に揃えて比べるのが正しい読み方です。
IT人材は不足していると聞きますが、年収は上がりますか
経済産業省はIT人材需給に関する調査を公表しており、将来的な人材不足が推計されています。ただし人材が不足しているからといって、個人の年収が自動的に上がるわけではありません。不足の内訳は職種や技術領域によって偏りがあり、需要が集中している領域とそうでない領域があります。推計値をそのまま自分の年収の見通しに当てはめず、志望する領域の求人条件を個別に確認してください。
未経験から転職した場合の水準はどう調べますか
同じ調査に経験年数別の数値があります。経験年数0年に近い区分を見ると、入り口の水準が分かります。年齢階級別だけを見ると、同年代の経験者と比較することになり、実態から離れます。未経験での転職を検討している場合は、年齢よりも経験年数の区分を優先して見てください。あわせて、求人票の想定年収が試用期間中も同じかどうかを確認しておくと、入社後のギャップを避けられます。
この記事に具体的な金額が書かれていないのはなぜですか
公表値が毎年更新されるためです。記事に金額を固定して書くと、更新されないまま古い数字が読まれ続けることになります。当サイトでは、確認した時点を明示できる数値だけを掲載する方針をとっています。本文で示した手順をたどれば、いつでも最新の公表値を確認できます。手順そのものは統計の構成が変わらないかぎり使い続けられます。
まとめ
エンジニアの年収を調べるとき、多くの記事が示すのは出典のない平均値です。平均は一部の高年収層に引き上げられるため、自分の位置を知る目的には向きません。真ん中の人の水準を知りたいなら中央値を、自分が分布のどこにいるかまで知りたいなら十分位数まで見ることになります。そして数字を読むときは、それが誰を数えたものかを必ず確認してください。求人票の提示年収と、実際に支払われている賃金は別の集団の数字です。
その数字は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査にあります。「職種(小分類)、所定内給与額階級別労働者数及び所定内給与額の分布特性値(産業計)」という統計表に中位数が載っており、エンジニアはソフトウェア作成者やシステムコンサルタント・設計者といった分類で確認できます。自分の年齢階級と経験年数に近い行を選ぶことが、正確に読むうえでの要点です。
転職の判断に使うときは、統計値を絶対の基準にせず、現職の位置づけの確認と、求人票の金額を読み替える材料として使ってください。関連する内容は年収・市場価値のカテゴリにまとめています。ほかの記事は記事一覧、当サイトの方針は運営者情報をご覧ください。